高い技術力だけでなく、
常に進み続ける
高岡のビジョンと
エネルギーに
惹かれています

「すごく創造力を触発される場所」
国内外で活躍するデザインジャーナリスト、
川上さんが語る高岡のポテンシャル

「工芸都市高岡クラフトコンペティション」での審査の様子。

力作を前にクラフトについての話題が大いに盛り上がった

北京市内CHAOで開かれた「日本工芸フォーラム」。当日は地元メディアの取材も多数

画像提供:国際交流基金 北京日本文化センター

もとデザイン誌『AXIS』編集者であり、現在は編集・執筆のほか展覧会のキュレーターやプロジェクトディレクターとして活躍する川上典李子さん。その仕事は「作り手」や「ものづくり」に関する仕事と一貫しながらも、国内外のメディアへの寄稿や、様々なデザイン・アート関連のコンペティションの審査員、大学・専門学校の講師など多岐に渡ります。

「デザインの仕事、とひとくちに言っても幅広く、人間の作るものに焦点を当てているんです。最先端のものづくり産業があり、伝統産業があり、工芸がありという高岡は、私自身にとって、日本全国のなかでもとても大切な場所になっています。どの仕事においても、『高岡の状況はどうだろう、高岡に聞いてみよう』という存在になっているんですよ」

そう話す川上さんが高岡に注目するきっかけとなったのは、高岡の伝統産業と若い職人たちを描くショートムービー『すず』(*1)の制作プロジェクトの話や完成映像を見聞きし、「わー、高岡にはなんて熱い方々がいるんだろう!」と思っていた2013年のことでした。その矢先に、高岡での道具・食品類の展示会にジャーナリストの立場で訪れ、映画に出ていた高岡の人々と会場で出会う機会に恵まれることに。

「その際に、初めて高岡伝統産業青年会の方とお食事して交流させていただきました。(郷土料理である)昆布締めも初めて食べて感動して…。ここで作られているもの、作っている方、美味しい食事。いろんなものが一緒に飛び込んできたあのときの鮮烈な気持ちは、今も強く印象に残っています」。

翌年2014年には、1986年から続く「工芸都市高岡クラフトコンペティション」に審査員として参加。「富山デザインウエーブ」*2の「富山デザインコンペティション」の審査に2016年〜2018年と関わったほか、2017年の「国際北陸工芸サミット」*3にも選考委員で関わるなど、様々な形で高岡との関わりが続いています。

「2017年に高岡で行われた工芸ハッカソン*4には私は関わっていませんでしたが、あのような取り組みができるのも高岡ならではだと思います。出会いのなかでのチーム編成が力になって、イベントで終わらずにそれを未来につないでいける道筋を今も探り続けている。いろんなジャンルがクロスして力を発揮できるような状況を作って、さらに育んでいける土壌が高岡にはあると思うんですよね」

さらに川上さんは、「高岡には独特のエネルギーを感じる」と話します。

「高岡の職人のみなさんは、歴史のなかで継承されたものをきちんと受け継ぎながらも、自分の枠を狭めていない。それがとても気持ちがいいし、おおらかさ、自由な精神でここから道を作っていこう、次を生み出していこうというエネルギーを感じて、それがすごく大好きなんです。それに、作っている人、作っているところが見えるからなのか、私にとって高岡はすごく創造力が広がる場所ですね。頭のなかの動いていなかった部分に楔(くさび)を打たれて、また新しい道が開けるような…」

国際交流基金 北京日本文化センターの企画で日本の工芸、デザインの接点について話をしてほしいと相談を受けたときも、やはり高岡のことを話したい、と思ったのだといいます。その結果北京市内で開かれた2018年3月の「日本工芸フォーラム」では、日本からは川上さんと高岡の鍛金職人・島谷好徳さん、そして有田焼のプロジェクトを行うクリエイティブディレクター・柳原照弘さんが登壇。数百名の聴衆の前で川上さんが日本の工芸とデザインについてレクチャーし、島谷さんと柳原さんはそれぞれのプロジェクトを紹介。そして中国でも絶大な人気を誇る香港の作家、梁 文道氏とのトークセッションを行い、会場は大いに盛り上がりました。

「島谷さんにはお話のなかで実際に“おりん”を鳴らしていただいたり、すずがみのワークショップ(*5)もやっていただいたりしました。“おりん”は中国のみなさんにも大変評判で、その精度や素晴らしさに感動されているのをその場で実感しましたね。こうして直に知っていただける機会というのを、やはり増やしていけたらと思います」。

島谷さんは自分の手と耳の感覚で調整・調律して“おりん”を仕上げていきますが、このように高岡の伝統産業では基本的に、常に技術を革新しながらも、人の手による丁寧なものづくりをしています。その「身体性」にも川上さんは着目します。

「最近、周囲でもよくその話題になります。伝統産業や工芸に関することだけでなく、アソシエイトディレクターとして企画に関わっている都内の21_21 デザインサイトでも、ディレクターの三宅一生さん、佐藤 卓さん、深澤直人さんともよくその話題が挙がります。現在の展覧会は佐藤さんディレクションの『虫展』ですが、監修で関わってくださった養老孟司さんが、私たちが何かを感じる『感覚』と考える『意識』と、どちらも大切だが、現代は意識のなかにひきこもりがち、という一文を寄せてくれました。『私たちの外には無限の世界があって、そうした外界と感覚の接点となるのが、感覚の域にあるアートである』と。大切なことに考えを巡らせる度に、身体で感じることや身体を活かすことの重要性を感じています」

「北京の企画も、工業化の著しい加速と生活の大きな変化のなかで、どうやって文化や手仕事を未来に受け継いでいくか、という問題意識を背景に、企画されたものでした。歴史を受け継ぎながら未来を作ろうとしている高岡のものづくりが、身体性と切り離さないでつながっているというところがすごく重要だと思います。北京と同じような状況が世界中で起こっている現代において、高岡の場合は、昔ながらの素材や技術を使いながらも、いつも次の時代を見据えて日々探求している。1つのモデルケースとして、世界中に伝えていけると思います」。

こうした高岡の、前に進み続けようとするビジョンやエネルギーが、外の様々なジャンルの方と混じり合うことで、新しいものが生まれる可能性はまだまだ大きいのでは、と川上さんは考えます。

「高岡は、人の魅力も大きいなと思います。技術力だけでなく、前に動かしていけるのはチームワークの力も大きいですね。そこにものすごくエネルギーが発揮されている。私自身も、どうやって今を未来につなげていくプロジェクトを作ろうかというときに、高岡の皆さんの動きにヒントをもらったり、鼓舞されたり、背中を押されたりしています。関わりたいと思わせる何かがあるし、みんなが行って何かをしたくなる場所なんじゃないかな。まだどういう発信のしかたがいいのか分かりませんが、私自身が新たにわくわくできる機会を作れたらと思っています」。

 

*1 ニッポン・ローカルショートムービー『すず』公式サイト

http://suzu-takaoka.com/

 

*2 デザインウエーブ開催委員会(構成団体:富山県、富山市、高岡市)主催。「富山から世界に発信するデザインムーブメント」として、毎年、全国から優秀な作品を募集し商品化をめざす「富山デザインコンペティション」ほか多彩なイベントを実施。2009年には、「デザイン」「企業」「人」を結ぶ活動が評価され、グッドデザイン賞を受賞。 https://dw.toyamadesign.jp/

 

*3 富山県主催。文化庁と北陸三県が協力し、工芸の魅力を国内外へ発信するイベント。初開催となった2017年は富山県で開催。https://kogeisummit.jp/

 

*4 北陸工芸サミットの関連企画として、高岡市が共催して実施。高岡の伝統産業の職人たちと、全国から募集した多様なジャンルの専門家がチームを組み、「工芸の未来」を提案した。https://kogeihackathon.com/

 

*5「すずがみ」は島谷さんが鍛金技術を活かして製作している、錫100%の曲がる皿。叩いて仕上げることで曲げ延ばしによる劣化が少なくなると同時に、美しい槌目模様がつく。ワークショップでは、自分で錫の板を叩いて皿を作る過程が体験できる。

Photography by Takaaki Koshiba

ジャーナリスト、21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクター。

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。執筆にあわせて日本のデザイン、工芸に関する展覧会の企画も手がけている。「WA:現代日本のデザインと調和の精神」(2011年)、「現代日本のデザイン100」(2014年)を共同キュレーション。「London Design Biennale 2016」日本公式展示キュレトリアル・アドバイザー。2018年 パリ装飾美術館「ジャポニスムの150年」展(国際交流基金共催)ゲストキュレーター。2007年より21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクター。