「平成の大修理」を終えつつある高岡・伏木の真宗寺院、勝興寺で2018年に初めて行われた「ふるこはんフェス」。
境内でのフード&クラフトマーケットや僧侶の方によるDJ、僧侶の方と語らえる「坊主Café」など、その日は昼から多くの人々で賑わっていました。
夜の帳が下りる頃、コンサート会場となった厳かな本堂を音で彩ったのは、国内外で活躍してきた2つのフォーク・ロック・バンド。ニューヨークで活動後に高岡へ拠点を移したRobin’s Egg Blue と、東京を拠点に活動するROTH BART BARONです。
地元に音楽を聴かせる場をつくり、音楽体験を提供
Robin’s Egg Blue でギター&ボーカルを担当する石浦さんは高岡市出身。音楽関係の仕事に携わった後、20代前半で渡ったアメリカで公私ともにパートナーであるAtsumiさんと出会い、Robin’s Egg Blueを結成します。その後子育てのため2016年に帰国。今はAtsumiさんの出身地である神奈川と富山の2拠点で音楽活動を続けています。
石浦さんはふるこはんフェスに続き、「地元に音楽を聴かせる場所を作りたい」と「雑Square(スクエア)」という音楽イベントをこれまでに2回開催しました。石浦さんが過ごしたニューヨークの“Square(広場)”で見た、多様な人々が集い楽しみ、思い思いの姿で音楽やその空間を楽しむ姿を、地元でも作りたかったのです。
「こっちに帰って来て、母校でライブをしたときに、生徒から『バンドのライブを聴いたことがなかったので貴重な経験ができた』という声を聞いたんです。だから、あまり音楽に触れたことのない人にも、雑Squareを音楽体験の1つとして提供して、自分は何が好きか、何が自分に合っているかの物差しにしてもらえたらな、と思っています。その体験をさせてあげられるのがミュージシャンだから、僕はそれを提供、提示し続けたい」(石浦)。
勝興寺の「場の力」と一体になって生まれた初の演奏体験
2018年の「ふるこはんフェス」にROTH BART BARON(以下ROTH)を招聘したのも石浦さんでした。以降、2回の「雑Square」で毎回ROTHとともに演奏を行っています。
「ROTH との出会いは、サマーソニックの素人枠での予選会場でした。楽屋で隣に座っていた彼らと、たまたま話が合って。そしてお互いサマーソニックへの出場を果たし、その後ニューヨークに彼らが来てくれたり、たびたび一緒にご飯を食べたりと、交流を深めてきました。
どんな気持ちでミュージシャンとして音楽を提供しているか、それを同じ感覚、同じ気持ちで共有しているなと思うのがROTHなんです。だから、Robin’s Egg BlueとROTHでやるライブは、自分がお客さんだとしても確実に感動するものにしたいし、感動するものになると思う」(石浦)。
最初に声をかける際、すでに勢いのあった彼らが果たして興味を持ってくれるだろうか、と心配もしていたそうですが、「ぜひやりたい!」と快諾してくれました。
「フジロックやサマーソニックに出ている彼らが、いち田舎でのお寺のライブに興味を持ってくれることに驚きました。僕は田舎育ちだからこの環境は当たり前で普通だけど、彼らからしてみると田舎の風土がすごく価値のあるものだ、本当は東京より田舎でライブをするほうが好きなんだ、と言ってくれていて。感覚の違いをそこで感じましたね」(石浦)。
ROTHの三船さんは、当時を振り返ってこう言います。
「東京生まれ・東京育ちの僕がまず驚いたのは、勝興寺の持つ時間とスケールの大きさでした。そして富山、高岡に降り立って感じたのは空気が澄んでいるということ」。
土地が五感に訴えかけるインパクト。石浦さんから見ても、それは当日の演奏にも表れていたようです。
「最初にROTH が来たときは、“場の力”をすごく感じていたと思います。テンションがいつもとちょっと違っていたんですよね。僕はこういう田舎の雰囲気に慣れているから、そこまで“場の力”を受け止めて演奏しなかったけど、彼らは寺の雰囲気を受け入れ、それに応えてパフォーマンスをしていました。本人たちも、こんな体験は初めてだと感動していましたね」(石浦)。
土地が持つ歴史・エナジーを活かし、デジタルの外側にある価値を共有するフェスを
ROTHの三船さんも、「ふるこはんフェス」「雑Square」での演奏活動を「若い世代、その上の世代が協力して作られた、文化的でいて新しい、クリエイティブなイベントにこうして何度も参加できることは、自分の経験として非常に大きなものだった」と振り返ります。
そして「願わくば高岡にもう少し長い間滞在してみたい」と続けながら、今後も高岡で新しいフェスティバルを継続して作り出していきたいと話します。
「文化、エンターテイメント、ビジネス、どれも東京一人勝ちの構図になっています。それをバランス良く配置するために、富山でしか生み出せないこと、アート、文化の地産地消とその生み出したものを外へと発信して行くことができれば、文化、アートの物々交換が生み出せる。
SNSの普及で簡単に繋がれるからこそ、その先のデジタルの外側の体験価値を生み出すこと。それは土地が持つ歴史、エナジーなくては完成し得ないものです。そういった点で富山、高岡は豊かなポテンシャルを大いに持っている。豊かな土地だと思います」。
その上で作り出したい新しいフェスティバルのイメージは、高岡、富山の文化、歴史を音楽とともに若い世代と共有するもの。
「人が循環し新しいアイデアを生み出し、デジタル化してゆく世界の中で、モダンと歴史のハイブリッドを意識しながら街を呼吸させて行く祝祭を生み出したい」。
内の人と外の人、新しいものと旧いものが融合しながら生まれる新しいもの。そこに土地の歴史・文化を含めた、目に見えない「場の力」があるからこそ、唯一無二の独自性は、現れてくるのでしょう。
コロナ禍を超えた先で、この祝祭が実現される日が楽しみです。
***Live Information***
ROTH BART BARONが2月に高岡にやってきます!
SONGS番外編 ROTH BART BARON Tour 2020-2021『極彩色の祝祭』
・公演日:2021年2月7日(日)
時間:18:00開場・19:00開演
会場:WingWing高岡1F交流スペースLittle Wing
料金:前売3500円/当日4000円
プレイガイド:LAWSON /PIA/e+ (一般発売2020年12月19日(土)10:00〜)
主催:Ishi-G雑楽工房/ROTH BART BARON
制作協力:SONGS音創会
問合せ:Ishi-G雑楽工房 ishig.studio@gmail.com 090-3864-4724