鋳造と3DCGで、後世に残したい自然の情景を写し取る

伝統技術と先端技術が交差する

金工作家 尾崎迅さんの新しい挑戦

工芸ハッカソンで生まれたMetal Research Labの取り組み。 人工知能、3Dモデリングや3Dプリンタ、ロボットアームなどを使い、これまで偶発性に任せていた着色テクスチャーをより意図的なものへと近づける試みや、金属の鋳造工程での造形の具現化、その際の偶発性の観察を試みた

LEXUS NEW TAKUMI PROJECTへ向けて描きためた尾崎さんのデッサン

山登りなど身近に自然と触れ合う中で作品づくりにヒントを得てきた。「この苔の写真、どこの山やったっけ〜」と思い出してくれようと努力する尾崎さん

山で出会ったという夜盗蛾、苔の写真(尾崎さん提供)

作品を制作段階の、Houdiniのモニタのスクリーン。スカイプでは、このモニターを画面に写しながらやりとりしたそう

LEXUS NEW TAKUMI PROJECTで生まれた作品の一部。「夜盗(ヨトウ)」「星霜(セイソウ)」

工芸ハッカソンから、LEXUS TAKUMI PROJECTへ

 

「考えてみると、僕にとっては工芸ハッカソンが一つ、大きなタイミングだったと思います」

大阪出身で、高岡に移り住み、工房を構えて活動する金工作家、尾崎迅さんは、先端技術と伝統産業を組み合わせで、新しい作品を生み出しています。 秀逸な作品を生み出した「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」について話を伺うと、まず、そう答えてくれました。(これまでの話はこちら。)

工芸ハッカソンとは、2017年に「国際北陸工芸サミット」の一環として富山県高岡市で開催されたプロジェクトのこと。「ハッカソン(hackathon)」とは、「ハッキング(既成概念を壊す)」と「マラソン」を組み合わせた造語で、 一般的に、ソフトウエア開発者が短期間にプログラムの開発やサービスの考案などの共同作業を集中的に行い、その技能やアイデアを競う催しを指します。

2017年の「工芸ハッカソン」では、金属工芸や漆芸の技と心意気を400年以上受け継ぐ高岡市を舞台に、高岡の伝統産業の職人や工芸作家と、全国のエンジニアや研究者、アーティストなどがチームを組み、「アート×先端技術×伝統産業」の視点で、伝統産業の未来につながるアイデアを出し合いました。その結果7つのプロジェクトが生まれ、各チームの活動は2019年現在も継続しています。

尾崎さんは、「Metal Research Lab」チームのメンバーとして、 人工知能、3Dモデリングや3Dプリンタ、ロボットアームといったコンピュータ技術を伝統的な技法に組み込むことによって、まったく新しい「金属表現」ができないかを探るプロジェクトを行います。そして、同じチームに属していたのが、のちに「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」でコラボレーションする、建築系プログラマー堀川淳一郎さんでした。

 

 

自分のものづくりの幅を広げる

 

尾崎さんは、作品づくりへの発想は自然に多く湧いてくるタイプで、全ての作業を一人でできてしまう分、工芸ハッカソンに参加するまでは、誰かと作品を作るという考えはなかったと言います。

「アトリエをシェアしていたメンバーと、年に一度、インスタレーション展示をすることはありましたし、他にも『何かプロジェクトをしようか』って話が出ることもありました。でも、みんなそれぞれの仕事があって忙しい。意見をまとめたりスケジュール管理したり、そういう人がいないと話が進まない。協働で作品を作ったり、具体的なプロジェクトにつながるのは難しかったですね。」

一方、会社から独立し、一人で制作を続ける中で、作品へのアイデアがマンネリ化してしまっていると感じることもありました。

「独立してから数年、ずっと一人で仕事をしていると『広がりがなくなってきてるな』って感じる部分があったんです。どうやってこれから自分の作品の幅を広げていくんだろうって。悩んでるっていうほどじゃないけど、次に作るものへのアイデアが、年々しぼんでいくような感覚を持っていたんです。」

そんな頃に目に留まったのが、「工芸ハッカソン」でした。おもしろそうと興味を持っていたところ、知人からの声かけもあり、参加。これまでにない、人やアイデアとの出会いに「刺激しかなかった」と、尾崎さんは言います。

「伝統産業の世界では知り合うことのなかった全く異なる業種の人たちと、同じことについて話し合うのは、すごい楽しかったです。しかも、みんな賢い。賢い人と話すのって気持ち良いですよね。『そんな風に考えるんや!』とか『そことそこが、つながるんか!』って、何をとっても非常に面白かったです。」

 

 

先端技術を介して、自然界の情景を手ざわりに変換する

 

尾崎さんは、チームメンバーである堀川さんに初めて会った時、「あ、俺が探しとった人や!」と思ったそうです。

「以前から、自然界にあるテクスチャを写し取った作品を作りたいと構想していました。単に表面的な模様というだけではなく、空間にはたらきかける要素が強い、手ざわりのあるテクスチャを研究したい、そう考えていました。自分の手で作ってみたこともあるけど、良いんかどうかわからなくて。どうやら3DCGを使えば、自分が求める表現ができるらしいってことには、気づいていたんです。でも誰に頼めばいいのかわからなかった。だから、工芸ハッカソンで堀川さんに最初に会った時、この人となら、ずっとしたかった表現が実現できるって思ったんです。」

尾崎さんはかねてからの構想を実現するべく、地域の伝統産業を生かし新しいものづくりを応援するプロジェクト「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」へ応募。デザイン案を提出し、見事に通過します。

LEXUS NEW TAKUMI PROJECT は、日本の各地で活動する、地域の特色や技術を生かしながら、自由な発想で、新しいモノづくりに取り組む若き「匠」に対しサポートする、 LEXUSが主催のプロジェクトです。47都道府県から毎年約1名ずつの「匠」が選出されます。デザインシートを元に審査し、認定後は、作品づくりへのコンサルティング、展示、海外発信のサポートが受けられる取り組みです。

「堀川さんには、まず、僕が描いたデッサンや参考画像といった素材を送って、ある程度こちらで考えたテクスチャの法則を伝えました。例えば、『苔清水』であれば、苔の基本となる形は小判形だけど、時々、長方形の苔を混ぜるとか、一つの面に必ず先割れした苔のテクスチャを含めるとか、そういったことです。生々しさも表現したかったので、一部のパーツは粘土で原型を作って、3Dスキャンをしてデータ化して送りました。その素材をまとめて、堀川さんが3DGCでいい具合に再現してくれて、あとはスカイプで配列を詰めていきました。」

工芸ハッカソンの経験から、遠隔でのやりとりにも、抵抗がなくなったそうです。

「スカイプとかの会議でも、問題なくものづくりできるっていうことがわかって、かなり気持ちがかなり軽くなりましたね。堀川さんがやってくれてることについて、実は僕もよくわかってないんですけど、堀川さんの咀嚼力がかなり高くて、僕の想いをきちんと理解してくれたから形にできましたね。」

出来上がったデータは、3Dプリンタで樹脂原型に出力。そこからは職人の手作業で、鋳型をつくり、「研磨」「仕上げ」「着色」といった行程を経て、「夜盗(ヨトウ)」「常世(トコヨ)」「星霜(セイソウ)」「苔清水(コケシミズ)」の4作品、後世に残したい自然の情景を写し取った器が、生まれました。

 

 

もうひとつの、協働

 

尾崎さんはこれまで、基本的に一人で、デザインから制作までを行うことが多かったそうです。しかし今回のプロジェクトでは、デザインとディレクションをメインで担当。鋳造は黒谷美術、着色は高岡市のモメンタムファクトリーOriiと色政へ依頼するという形をとりました。

「今回のプロジェクトは自然界を写し取る作品なので、生々しいテクスチャを出すために鋳造にも着色にもかなり精巧な技術を求めたんですが、あらためて高岡の職人さんたちの技術力は、ほんまにすごい。高い技術力を改めて感じる機会になりました。それに、『職人さん』って聞くと頑固なイメージがあると思うんですけど、みなさん、僕が思いを伝えると、本当に親身になってくれて。『もう少しこうしたい』って要望にも『この方法も試してみたよ』とか『こういうのはどう?』って、どんどん柔軟な発想を出してくれました。そういう職人さんたちがいたからプロジェクトが実現できたし、だからこそ、高岡のものづくりが進んでいくんやなって思うんです。」

 

 

工芸ハッカソン

https://kogeihackathon.com/

 

LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 尾崎 迅

https://lexus.jp/smp/brand/new-takumi/2018/ozaki-hayate.html

 

 

 

尾崎 迅 Hayate Ozaki

1982年生まれ。金工作家。2005年、金沢美術工芸大学工芸科鋳物専攻コース卒業。2009年より高岡の鋳造メーカーに勤務し制作を開始。2014年に独立。作品制作と研磨職人を両立するほか、デザイナーとしても活動。銅合金のもつ抗菌作用を生かした花器や素材の永年性に着目した作品を制作している。