人と出逢い、技の文脈を知る旅【クリエイター向けモデルツアーin高岡(2019.11.22-23)レポート#2】

2020.01.29 UP

高岡市の主催により、11月に実施した高岡でのクリエイター向けモデルツアー「Creators Meet TAKAOKA」。多様なジャンルの12名の方に参加いただいたツアーを、同行したライターの視点からレポートします。

>>前編はこちら

人と出逢い、技の文脈を知る旅【クリエイター向けモデルツアーin高岡(2019.11.22-23)レポート#1】

 

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02.行政とお寺。ものづくりを支える様々なアクター

そうした高岡の職人たちを支えるもののひとつに、県や市といった行政の取り組みがある。今回のツアーでは富山県総合デザインセンターと高岡市工芸デザインセンターに訪れ、さまざまな支援策について教えてもらった。その充実ぶりが、なかなかすごい。

たとえば高岡市工芸デザインセンターには鋳造、彫金、漆の工房があり、50年前から続く後継者育成事業には今年も多くの人が参加している。富山県総合デザインセンターには最新のVRスタジオや各種3Dプリンタ、デザインCAD、モデリングマシン、撮影スタジオといった設備があり、誰でも低価格で利用することができる。さすが製造業従事者率が日本一の富山県だ。

さらに、能作をはじめとする高岡の伝統産業ではかなり早い時期から外部プロデューサーやデザイナーとの協業がされているのだが、その関係を初めに繋いだのは高岡市の事業だったというお話をうかがう。現在でも高岡クラフトコンペや富山デザインウェーブなど、技術伝承、製品開発、販路拡大、情報発信と、さまざまな領域でものづくりを活性化するためのプロジェクトが動いている。

 

 

アイディアや要望と、工房や技術をつなぐことには自信があると富山県総合デザインセンター・相談員の吉田絵美さん。

「長年の取り組みがあってのことなので、マッチングには高い精度があると自負しています。高岡や富山の技や人と一緒にものづくりをしたいという方、やってみたいことがあれば、ぜひ気軽に相談してみてください」

 

 

もうひとつ、高岡の工芸と深い関わりを示すのがお寺の存在だ。

1300年の歴史をもつ浄土真宗寺院、飛鳥山・善興寺では、銅製の仏具がもっともフォーマルな形式で配置されているのを見ることができた。

「ここに表現されているのは、仏様の悟りの世界です。そうした見えない世界を具現化したところに高岡銅器のルーツがあります」と話してくださったのは住職の飛鳥寛靜(かんじょう)さん。

高岡銅器の製造元では、主に仏具を作っていた、もしくは現在もそうであるという話を良く聞く。なぜ仏具が必要とされたのか、なぜその技術が継がれてきたのか。見えない世界を具現化したという言葉に、高岡銅器のこころが信仰と深く結びついていたことを知る。お寺はとても深いところで、高岡のものづくりを支えてきたのだ。

 

飛鳥さんはまた、「いまは伝統技術をつかった新しいものがたくさん作られているけれど、どうも精神性がともなっていないように思う」とも言う。

「技術はあるけど想いがないとお寺で言われたことにハッとしました。自分が扱う工芸品に関して、始めた人はどうして作ろうと思ったのか、もっと知りたいと思いました。その上で現代の人がほしくなるものをつくっていきたい(伝統工芸メーカー・企画販売)」

高岡の伝統工芸はただ長く続いてきたのではない、そこには必要とされる必然があった。ルーツを知ると精神性の重要さもまたずしりと重く感じられるのだった。

 

 

03.人と土地の文脈を知る ものづくりの起点となる旅

さらに今回のツアーでは、江戸時代の職人町「金屋町」、明治時代の商人町「山町筋・山町ヴァレー」、海越しの立山連峰が美しい「雨晴海岸」、大伴家持が務めた国守跡に建つ「勝興寺」など、歴史の流れや高岡の自然風土を感じさせる場所にも立ち寄った。

「はじめはどうしてお寺に行くんだろうと思ったけれど、おかげで街全体の文脈がなんとなくわかりました。その文脈を積極的に利用することで、新しい価値をこの地域に根ざした形で表現することに挑戦したいと思います(化学メーカー・ロボット素材開発)」

技や人はそれだけでぽつんとあるのではなく、長い時間軸と大きな空間軸のさまざまな結びつきの中にあるものだ。だから技や人を育んできた土地を知ることは、厚みのある大きな視点で技や人を知ることでもある。いざ協業しようというとき、その土地の海辺に立った記憶が役立つこともあるかもしれない。

今はモニターを通じて、会議だけなら地球の裏側にいる人ともできる。写真も動画も、情報はいたるところに溢れている。けれど土地が持つ空気感はぜったいに、そこに行かなければわからない。

逆にいえば、ただ行くだけでわかることがある。街並みやその土地の光の中に身を置くことで、すっと身体に入ってくるものがある。百聞は一見に如かずの感覚は、情報技術が発達するほどかえって強い実感を伴うのではないだろうか。全身でその土地を感じる、そこに旅の醍醐味がある。

今ここにある技や人々の魅力。背景にあるお寺や海の風景。今回のツアーではその間を行き来することで、この土地の持つ全体感がじんわりと共有できたような手応えがあった。

そうして参加者それぞれが感じた「高岡」は、これからどういったかたちを見せてくれるだろう。

協業を形にして恒常的な活性化につなげていくためには、仕組みづくりや場づくりといった受け入れ側の課題も多くある。行政、DMO、それぞれの立場で課題解決に取り組みながら、今後に期待したいということで Creators Meet TAKAOKA は幕を閉じた。

訪れて終わりではない、起点としての旅。ここから何が生まれていくのか、楽しみで仕方がない。

「ここにあるのは滅多にない技術だから、ぜひ何か一緒にやりたいと思います。大事なのは関わる人が違う視点を持っていること。職人さんが夢物語のように感じることでも、話してもらえたら、意外とすっと実現できるかもしれない。まだまだそういう可能性がたくさんあると思います(ロボット開発・ソフトエンジニア)」

(同行ライター・記)

 

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【information】

Creators Meet TAKAOKA
◎日程:2019年11月22日(金)~23日(土)
◎実施場所:富山県高岡市
◎参加人数:11名
◎訪問先:能作(鋳物)、ウィン・ディー(デザイン・モックアップ製作)、シマタニ昇龍工房(鍛金)、富山県総合デザインセンター/高岡市デザイン・工芸センター、武蔵川工房(螺鈿細工)、momentum factory Orii(金属着色)、金屋町、飛鳥山善興寺、勝興寺、雨晴海岸、山町ヴァレー


 主催:高岡市

企画運営:一般社団法人 富山県西部観光社 水と匠 https://mizutotakumi.jp/

 

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