産地の技の集積を知る Creators Meets TAKAOKA 2020 キックオフツアーレポート

2020.11.12 UP

立山連峰がくっきり望める秋晴れの気持ち良い一日。Creators Meet TAKAOKA2020のキックオフとなる高岡ツアーが開催された。

東京でのPRイベントとクリエイターを招いてのモデルツアーを実施した昨年。今年はもう一歩踏み込んで、実際にクリエイターと高岡の工房が協同し、作品や商品、素材をつくりだす、新たな展開をはかっていく。

今回の参加者は5組。うち2組が昨年度にひきつづいての参加、3組が新しい参加者だ。はじめに産地の全体像や風土を体感してもらおうということで、ツアーでは参加者全員で全ての協働先工房を巡った。

 

能作 × Hamanishi DESIGN

まず一行が向かったのは、高岡銅器を代表する鋳物メーカー「能作」の工場。鋳物場での鋳物砂を使っての鋳造工程に、研磨場での加工作業を見学させてもらう。なぜその作業をするのか、道具の配置や書いてある言葉の意味は…各々から発せられるクリエイターならではの質問に、お互いに刺激しあう場の空気が早々に醸成されていく。

案内してくれた磯岩篤さんは、商品企画を主に担当。昨年までは能作の東京事務所で働いていたが、高岡の人の魅力が忘れられず、今年から高岡に戻ってきたという。

一方の「Hamanishi DESIGN」のプロダクトデザイナー鎌田修さんは、昨年につづいての参加者。ちょうど社内で燭台をつくろうという企画がもちあがったときに、今企画を知った。

「昨年のツアーが強く印象に残っていて、燭台なら能作さんとやりたいと思っていたところだったんです。イメージもかなり明確に描けていて。室内で過ごす時間の質にこだわる人が増えた、今の感覚にフィットしたものができる気がしています」

すでに商品化への道筋もみえているようで、昨年度の種まきが見事に結実していくような嬉しさを感じる。出会いから生まれる、化学反応のようなプロダクト。おそらく私たちも手に取れるだろう製品を楽しみに待ちたい。

 

漆器くにもと × MOLp

つづいては漆器の企画問屋である、「漆器くにもと」へ。山町筋の土蔵を改装した店舗内には、高岡でつくれる様々な技法の漆器製品が並ぶ。いわゆる螺鈿細工である青貝塗りと彫刻塗りなど、代表の國本耕太郎さんが高岡の漆の技法について教えてくれた。

協働先となる「MOLp(Mitsui Cemicals Oriented Laboratory)」とは、三井化学社内のメンバーによって立ち上げられた有志グループ。主力製品であるプラスチックへの課題意識を背景に、素材が持つ感性的価値に着目し、社会に表現していく活動を行なっている。

3年前には表参道で展示会を実施し、太陽の光を受けると色が変わる糸を発表。展示会には様々なクリエイターが訪れ、アンリレイジ、ルイヴィトン、フェンディといった大手メゾンがMOLp発の素材をつかった製品を世に送り出した。

今回はMOLpから4人のメンバーがツアーに参加。そのうちの1人、宮下友孝さんは去年からの参加者だ。

「そのものをつくることで、職人さんの利が大きくなるような、強く動機付けできるものを考えたい。あとは、万年筆のような、樹脂製だけれど消耗品ではない、長く愛されるものをつくりたい気持ちもあって。形はまだ見えていないけど、想いは色々あります」

すでに来年3月にはMOLpの展示会が表参道で予定されている。今回の協働の成果も、そこで発表されるとのこと。思わずまだ見ぬ漆にまつわる新素材が、世界に羽ばたく未来を想像してしまった。

高岡漆器の勇助塗り、井波彫刻の欄間など、随所に名匠の技がうかがえる「土蔵造りのまち資料館」を見学した後は、山町ヴァレーにて昼食。「かねまつ食堂」さんの今ツアーのための特別魚づくしランチをいただいて、実は海も近い、高岡の風土を感じる時間になった。

 

竹中銅器×TAKASHI TESHIMA DESIGN

「竹中銅器」は、高岡銅器産地で一番の規模を誇る企画問屋。90年代から建築家やデザイナーとのコラボ製作をはじめた、産地のさきがけ的存在でもある。店内は様々な製法の銅器製品が揃う、さながら見本市のような空間。

「新しい角度からの商品開発がしたい」とデザイン部長の喜多(きた)登さん。

「うちはいわゆるファブレスのメーカーです。自社工房を持たないかわりに、様々な技術を持つ工房とのマッチングが幅広くできる。今も産地内で50社以上とのものづくりが動いています」

対するお相手はプロダクトデザインに加えてファッションアイテムの製作販売もおこなう、手嶋隆史さん。

プロダクトデザインは理詰めで合理的に構築していく仕事だが、手触りの残る製品づくりにも惹かれ、ファッションアイテムをつくるようになった。そこから、伝統工芸にも興味を持ったのだという。

「竹中さんの社屋内にあるあらゆる銅器をみて、磨きによって現れる鏡面的なツヤと、素材の化学変化による着色、それぞれの全く違うテクスチャーに強く興味を持ちました。それらを同居させるのもおもしろそうだなと」

手嶋さんの言葉に、磨きと着色を全くの別ジャンルとして見ていたことに気づいた。ふとした発想に、外からの視点ならではの新鮮さを感じる。

この日のアイディアはあくまでも初見のイメージによるもの。この先どういった経過をたどって新製品が生まれるのか、発想の変遷も興味深い。

 

佐野政製作所×Shy Shadow

デザイナーの芳村明さんはアメリカの美大を卒業後、20年間アメリカのプロダクト業界の一線で働いてきた。今年は「もっと日本を知りたい」と、各地での出会いを仕事に繋げながら、日本中をまわる1年なのだそう。

「アメリカでは体験できない、とても貴重な機会だと感じています。ものづくりを具現化してくれる工房がなくなってしまうと、デザインの仕事も成り立ちません。全力で取り組むので、僕のことをどんどん使ってもらえたら」

一方の佐野政製作所はオーダーメイド品の受注製作やオリジナルの数珠かけを製作するメーカー。ゲーム会社が製作するキャラクターを象ったトロフィーなど、「他で断られた」難しい案件が舞い込んでくることも多い。

工房に到着してすぐ目にしたのは、螺鈿、彫金、着色と、様々な加工が施された金属のマグネット。銅器産地内の様々な加工技術の見本として、各工房に依頼して作られたものだという。

「分業というのが僕はとても良いと思っていて。依頼に対して、期待値を超える仕事をしてもらえることが多い。ひとつの会社で全部できると、そうはならないんじゃないかな」と代表の佐野秀充さん。

マグネットをみて、数枚のスケッチを起こして持参してきた芳村さんも、つくりたいもののイメージが変わったという。

「スペシャリストの匠が集まっている、産地の力を感じました。表面の仕上げの種類など、もっと詳しくうかがっていきたいと思います」

 

高岡民芸、シマタニ昇龍工房 × 未音(ひつじおと)制作所

音楽家である若狭真司さんは、今回二つの工房との協働を行う。それぞれの工房に対してすでに豊かなイメージが描かれており、どちらの可能性も捨てがたいということで、イレギュラーながら二社との協働が行われることになった。(今回は残念ながら日程が合わず、ツアーには不参加。)

ツアーも佳境に入る中で一行が向かったのは、菅の田んぼ。高岡民芸を営む中山夫妻は、菅を栽培するところから加工までを一貫して行っている。

福岡(高岡市・旧福岡町)の菅笠は時代劇や全国の祭などの需要に対してシェア9割を誇るが、元が農閑期の内職だったことから工賃が安く、高齢化と後継者不足が深刻化。そんななかで、中山煌雲さんは産地唯一の若手として、アートピースとして飾りたくなる菅笠づくりに邁進している。

「やったらやっただけ報われる、すごく可能性のある分野だと思ってます。新しいことも自由にできるから、どんどんやっていきたくて」と中山さん。

もうひとつの協働先は、「シマタニ昇龍工房」。職人の数が全国でも10人に満たない「おりん」をつくる鍛金の工房で、今年は曹洞宗大本山・永平寺のおりんの修理も行なった。

おりんづくりにおいて何よりも重要なのが、「調音」という音の調整作業。音色に耳を傾けながら、金属を叩くことによって、心地良い響きを生み出していく。感覚で身につけるしかない、一子相伝で伝わる調音作業は、代表の島谷好徳さんでも身につけるのに12年ほどかかったという。

「絶対音感があるかと聞かれたりもしますが、ないです。聞き分けられるのは「おりんの音」だけ。音楽的な才能があるわけではないんです」と島谷さんは笑うが、おりんに楽器的な要素があることは間違いない。

そして、協働する若狭さんは音楽家である。おりんを楽器としてとらえた時に何が起きるのか、期待せずにはいられない。

丸一日かけて、全6軒の工房を巡ったCreators Meet TAKAOKA2020キックオフツアー。メーカー、企画問屋、素材の栽培から製品化までを一貫して行う工房など、さまざまな現場を訪ねることで、高岡のものづくりの層の厚みを実感する1日になった。

それぞれの工房の背景には、長い伝統を持つ産地全体の技術の集積がある。その経験値と、クリエイターの発想が出会った時、どんな化学反応が起きるのか。今後の展開に注目したい。

 

 

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