お寺が地域にお返しをする番。【雲龍山勝興寺レポート#02】

2019.01.08 UP

 

前編、後編と全2回にわたる勝興寺レポート。

#01「宝物展から見る、勝興寺のおもしろさ」では、勝興寺の宝物を通じて勝興寺というお寺の持つ歴史を紐解きました。

今回は、お寺と人々の関係性が変わってくる時代背景のなかで、これからの勝興寺がどんな存在となっていくのか。勝興寺文化財保存・活用事業団の高田克宏専務理事とのお話を中心に展開します。

 


 

観光寺院でも、単なる貸し場所でもない、お寺であること

1998年からはじまった「平成の大修理」と謳われる勝興寺の保存修理工事も、開始からすでに20年ほどを数え、気づけば平成も終わりに差し掛かる今日この頃。本坊の一部公開に伴い、かねてより行われている地域の茶会に加え、音楽ライブやクラフトマーケット、ワークショップなどのイベントが勝興寺を舞台に催され、多様な人たちが足を運ぶようになっています。 僧侶、住民、ミュージシャンがともに企画した「ふるこはんフェス」※は、新たなお寺の可能性が開かれた一夜でもありました。

※ふるこはんフェス…2018年10月6日に勝興寺を舞台に開催されたイベント。コンサート、ワークショップ、クラフトマーケットのほか、音楽法要、坊主カフェなどを行った。TOP写真は、音楽法要のワンシーン。雅楽とシンセサイザーなどの音楽とともに経を唱える新しい形の法要を提案し、僧侶総勢30名と参加者がともに法要を行った。

 

前回に引き続き、お話を伺った高田専務

 

「基本的には、宗教上や保存上の問題がない限り、申請をいただければ本堂・本坊ともにつかっていただけます。これからも開かれた場所として、人が集まる場所になって欲しいと思っています。」(高田専務)

取材を行った当日も、本堂の一部と本坊の大広間でお茶会が開かれていました。静かに建物を見学するのも良いものですが、人びとの声があたたかく行き交う中では部屋の節々がぴかぴかと光っているようで、やっぱり建物は人が使ってこそ息吹を吹き込まれ、生きるものなのだとしみじみ感じ入るものがあります。イベントの効果もあってか、最近は見学に訪れる若い人も増えているそうです。

 

本坊の大広間で行われていたお茶会。一般の見学者の方とともに賑わいを見せていました

 

「 門徒さんは減っていますし、今の若い人にはお寺に寄進するという感覚はかなり薄れています。お寺を維持管理するためには、場所として使ってもらったり、観光である程度の収入を得る必要はあると思っています。」(高田専務)

お墓の形さえもかわりつつある今、若者たちがお寺や宗教行事に触れる機会は格段に減っています。お寺を支えていくことはもちろんですが、イベントや観光をきっかけに、人々にお寺を知ってもらうというのは一つの新しいアプローチです。「さりとて」と、高田専務は続けます。

「さりとて、宗教行事はしっかりやっていかな、いけんと思っているんです。まずは、きちんと、お寺であること。観光はあくまで二次的なことなんです。宗教施設としての機能をなくしてしまったら、信仰の対象としての、お寺の意味がなくなってしまう。単なる博物館になってしまったらきっと魅力もなくなってしまいます。勝興寺では、今もこれからも年中行事はしっかり行うし、もちろん納骨を受けたり、法事も受け付けています。若い人たちにも”通常のお寺での行事”にも触れてもらえたらなと思っているんです。」(高田専務)

 

 

親しみと畏敬の「ふるこはん」

ところで、「門徒さんが減っているとはいえ、勝興寺は長く、地域の人に支えられてきた」と高田専務は語ります。

勝興寺の土地は1万坪と非常に広大なのですが、建立当時から今に至るまで、土地も建物もほぼそのまま残っています。実は、「これってすごいこと」なのだとか。近現代になるにつれ、門徒からの寄進が減っていくなか、広大な土地や多くの建物を有する寺院は、その維持に困り、土地や建物を手放すことも多かったといいます。一方、勝興寺は、明治に入っても門徒さんたちに支えられたことにより、当時の形を保ちつづけてこられたのです。

「勝興寺は、本当に今まで、地元や門徒さんにお世話になって支えられてきた寺です。だからこそ、今度はお寺が地域にお返しせんなん時なんです。この寺が地域のまちづくりの核になり、まちづくりによって地域が潤うようになる。それこそが、勝興寺が地域がお返ししたことになるんじゃないかと思うんです。」(高田専務)

勝興寺の本堂は、どこか西洋建築の宗教施設に似た、荘厳で圧倒的な美しさみたいなものがそこにありますが、これも(もちろんある程度の庇護のもとであったとはいえ)、民の力が寄り集まって生まれた空間だと考えると、感嘆の想いがこみ上げてきます。地域の人は勝興寺を親しみと畏敬の念を込めて「ふるこはん」と呼ぶそうですが、崇高な雰囲気の中にあたたかさのようなものがあるのは、地域の人とのお寺の関係がそうだからかもしれません。

 

荘厳な雰囲気のなかでも、おだやかに時間が流れています

 

そうそう。勝興寺の見学には、 伏木にお住まいのかたを中心とする「比奈の会」によるボランティアガイドを受けることができます。ご自身で勉強なさった勝興寺の魅力を、皆さんがそれぞれの視点で紹介してくださるそう。ボランティアの方達が独自で調べるなんて、それだけでも勝興寺への愛みたいなものを感じて微笑ましくなってしまいます。看板に記された説明書きを読むよりもずっと、人から直接話を聞くというのは良いものです。「実はここはね」と話されると特別な秘密を知ったようで嬉しくもなります。

 

観光ボランティア「比奈の会」のガイドの様子

 

浄土真宗系のお寺は本来、開かれた場所です。お寺で人々は、時に集い、学んだり気づきを得たり、他者や自分と出会ってきました。

これから、かつてのお寺と門徒の関係でさある「講社」制が復活するということは考えにくいかもしれません。お寺と人の関係は、今以上に形を変えていくでしょう。「お寺」という場所の持つ意味が不確かになっている今だからこそ、あらためて勝興寺は「本来のお寺」を探り始めているのです。

 


 

雲龍山勝興寺

◆拝観情報

参拝時間:9:00~16:00(最終入場 15:30)

料金:工事協力金 大人500円/小人(中学生以下)無料

◆観光ボランティアガイド、勝興寺利用申込み

住所:〒933-0012 高岡市伏木古国府17番1号

TEL:0766-22-0037 

FAX:0766-44-0210

※観光ボランディアガイドの案内希望グループ、団体は3日前までに要連絡。個人も申込可能。

※ガイドには1人あたり1,000円の交通費を支払う必要あり

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