毎年9月の連休、高岡では、高岡のものづくりやクラフトを観たり買ったり体験したり、そして地場食材とクラフトを組み合わせたグルメを楽しんだりといったイベント「高岡クラフト市場街」が開催されています。盛りだくさんのイベントをより効果的に楽しんでもらうために、コンシェルジュとして活躍するのは、富山大学芸術文化学部の学生たち。イベント前から準備を重ね、当日はイベントや見どころの案内のほか、懸賞付きのスタンプラリー企画も行っています。
スタンプラリーといえば、主要なスポットに行ってスタンプを押す、という形式は皆さんおなじみですよね。実は平成27年から、高岡クラフト市場街では、通常のスタンプラリーに加えて、まちの「人」を探して、その人が持っているスタンプをもらう、というユニークなスタンプラリー、「職人・町人スタンプラリー」も行っています。その「人」とは、高岡で伝統産業に携わる職人の方々や、まちづくりなどに携わる方々(町人)。スタンプを媒介に、これまで触れ合うことのなかった人たちが出会ったり、子どもたちが高岡のものづくり・まちづくりに携わる「人」に出会うきっかけになったりと、まちのあちこちで、新たなコミュニケーションが生まれています。
■スタンプを「人」に持たせてみたら?
「職人・町人スタンプラリー」企画を立ち上げたのは、富山大学芸術文化学部 の学生、河原つかささん。2年生時に初めて「高岡クラフト市場街」のコンシェルジュとして関わり、スタンプラリーをより面白くしようとアイディア出しをするなかで、ふと「スタンプを店に置くのではなく、人に持たせてみたらどうだろう?」と思いついたのがはじまりでした。
始めた1年目に協力をしてもらったのは職人の方々。当初はパスポートに設けた空白に「職人さんにたまたま会って、たまたま押してもらえたらラッキー」といった程度の、隠れ企画のような位置づけでしたが、翌年はコンシェルジュとして関わる他の学生にも手伝ってもらい、町人の皆さんも協力者に加わりました。さらに3年目にはスタンプのイラストを可愛らしく一新し、スタンプページを一覧にして達成感を感じられるようにしただけでなく、スタンプを持つ「人」の素顔を紹介するフリーペーパーも配布しました。
■初めて会う人に声をかけやすい工夫を。
1年目、2年目での「職人・町人スタンプラリー」実施を経てつかささんが考えたのは、「身内感の強い企画で終わるのではなく、参加者が初めて会う町人・職人さんに声をかけやすくするにはどうしたらいいだろう?」ということでした。スタンプを持つ職人・町人さんのなかには、すでにいろんなメディアに紹介されている人もいますが、大抵紹介されているのはその人の仕事のことや、仕事をしている姿。このフリーペーパーでは、あえてその人のプライベートのことを紹介し、リラックスした姿、あるいはちょっと気取った姿の写真を掲載しています。
それは、これまで協力してくれている町人・職人さんとの関係を積み上げてきたつかささんだからこそ引き出せた表情や話題だったかもしれません。参加者に事前情報を得てもらうだけでなく、プライベートな話だからこそ抱ける親近感や話の接点を持ってもらい、距離感を縮めてもらうことを狙ったフリーペーパー。実際、200部あったフリーペーパーは全てなくなり、参加者からは「親近感が湧いた」「来年はもっと職人さんといろいろ話したい」といった声も聞かれたそうです。
町人・職人さんも取材を喜んでくれて、イベント当日も冊子をネタにしながら『スタンプを持ってるから押してあげようか?』と積極的にイベントに来ていた人に声をかけていたようです。
■3年間の成果を、卒業制作に。
自らを「コミュニケーションが苦手」だというつかささんですが、「高岡クラフト市場街」のコンシェルジュとして3年間関わるなかで、「県外や市外のお客さんと話すだけでなく、地元の方にイベントに興味を持っていただいて親しく話すなかで、まちのなかに自分も溶け込んでる感じがして嬉しかった」と話します。
「職人・町人スタンプラリー」は、そんな自身が感じた「まちに溶け込む」喜びと、コミュニケーションの難しさを知る立場から生まれた、イベントに訪れる参加者でも(短い滞在でも、コミュニケーションが苦手でも)、まちで出会う人と通じ合う喜びや楽しさを感じられる仕組みでした。
1から企画を考え、改善を繰り返してきたこの仕組みを、つかささんは『コミュニケーションを生むスタンプ 〜「高岡クラフト市場街」における「職人・町人スタンプラリー」の提案〜』として卒業制作にまとめました。3年目のイベント実施を経てさらに、子どもを含めた参加者の興味やモチベーションを向上させようと、今回制作した冊子の内容が読める特設ホームページ(>>リンク<<)や、子ども向けに伝統産業を紹介した冊子を試作して提案。ホームページは、ひらがなを多用した子ども向けに切り替えることもでき、アニメーションをしのばせるなど細かいところにもこだわっています。完成した卒業制作は高く評価され、優れた卒業制作・論文に与えられる「Geibun Prize2018」を受賞しました。
大学生活を経て、つかささんは、地元である高岡の地場産業やまちづくりに関わって貢献していきたいと、株式会社能作に就職する予定です。学生生活で培ったつながりや経験がどのように花開いていくか、これから楽しみですね!
※肩書は取材当時のものです