すーっと身体に心地よい音色を響かせる「おりん」。シマタニ昇龍工房は、江戸時代から続く鍛金技法によって「おりん」を制作する、明治42年(1909年)創業の工房です。島谷好徳さんはその四代目として、23歳での弟子入り以来一貫しておりんづくりに携わってきました。
鍛金によって作られるおりんは金鎚で叩いては何度も音色を確かめる、気の遠くなる調音作業によって完成します。この調音作業も含めておりんをつくれる鍛金職人は全国にも数人しかいません。寺社への需要は減ってきていますが、その一方で、おりんの音色には人を癒す効果があることも科学的にわかってきました。
そんななか島谷さんは数年前から、癒しやマインドフルネスをもたらす生活用品としてのおりんを開発。小さいながらも一級品の音色を持つおりんは、銀座和光の地階など伝統の技を伝える売場の他にも、ヨガやサウンドヒーリングといった領域で販路を広げています。
「既存市場がない商品でしたが、予想以上の需要を感じています。サウンドヒーリングなどの場面においてはネパールやチベットのおりんを使う人が多いなか、日本のものを少しずつ取り入れてもらえるようにもなってきました。」
島谷さんが現在力を入れているのは、海外での展示会。伝統工芸品を守り伝えていくには、海外市場への展開が必要だと考え、ロンドンで行われるヨガのイベント、中国での展示会などに積極的に出展しています。工房で販売しているおりんも、売上の半分は海外の方なのだそう。
「ロンドンでおりんのデモンストレーションをしたときも大好評で、その場でかなり大きなおりんを求めてくださった方がいました。中国武術をされる方で、“おりんの音色を聴くと集中しやすい”と。そうした展示会で出会って“日本へ行くよ”と言ってくださった方は、本当にここまで来てくれるんですよ。」
「ビジョンを描いたとおりに進めている」と島谷さん。その秘訣はどうやら「素直さ」にあるようです。
「この展示会に出たら良い、と言われたら出てみる。前例のないことも誘いがあったらやってみる。今は『528ヘルツのおりんをつくったら良い』と言われて、じゃあ!ってつくっていて(笑)。その柔軟さがときに大きな転機に結びついていく気がします。」
「高岡には先人が培ってきてくれた伝統の技術があります。せっかくの技術があるのだから、こんなことやっていいのかな?と遠慮しないでチャレンジしてみる。そういった気持ちが大事なんじゃないかと思いますよ。」