2020年12月に重要伝統的建造物群保存地区(以下重伝建)に選定された高岡市北部のまち、吉久。小矢部川と庄川の河口に挟まれた中洲状の立地から、江戸時代には米蔵が立ち並ぶ米穀売買や倉庫業により栄え、「さまのこ」と呼ばれる格子戸が特徴的な伝統建築が今も軒を連ねます。
現在は静かな住宅街である吉久。草島誠一さんと陽子さんご夫妻が営む「さまのこ屋」は、地区内唯一の喫茶兼ギャラリーとして、地域の人たちに憩いの場を提供してきました。
オープンは2005年。定年退職後に喫茶の仕事をしたいと思っていた陽子さんと陶工房を営んでいた誠一さんが二人ではじめた、陶芸教室を併設する喫茶店です。
料理をふるまうのは陽子さん。一番人気は毎日15食限定のランチで、市外からランチを目指して来られる方もいるそう。器は誠一さんによるもので、店内には珍しい自作の陶器製のスピーカーも。
ギャラリーでもあるさまのこ屋、この日は大伴家持の万葉歌を表現した切り絵が飾られていました。月に一度入れ替わる展示は、アマチュアの方の作品発表の場。アコースティックコンサートも毎月実施しており、2021年12月でなんと132回目だそう(!)。
継続は力なり、という言葉を思わせるお二人の活動。それはお店の運営にとどまらず、吉久の重伝建化にも大きく寄与するものでした。吉久に生まれ育った誠一さんは、吉久まちづくり推進協議会の会長でもあるのです。
「重伝建を目指し始めたのは27年前で、私は、しいていえば3代目のリーダーです。ここまでこれたのは諸先輩方の活動と住民の皆さんの気持ちがあってこそ。指定を、どう暮らしよいまちづくりに生かしていくか、それはまたこれから何年もかけて、皆で協議しながら形にしていきたいと思っています」
一方、吉久で月に一度開催されている朝市は陽子さんの発案なのだそう。
「町並み保存といっても、言うだけでは浸透しないので、目に見える動きをしたいと始めたことでした。今はガレージや軒先を7箇所ほど借りて、通りを回遊する市になっています。元気?って地域の人たちが声を掛け合う場になっているのも嬉しいことですね」
実は、この場所でお店をやろうと言ったのも陽子さんでした。
「当時は空き家だったこの建物が取り壊される話を聞いて、この建物はなくしたくない、ここで喫茶店をやろう!と。地域の人がつくったものを売ったり、色々な人に展示やコンサートをやってもらったり、みんなでいつの間にかつくりあげてきた。そうして、どんどん良くなってきた感じですね」
パワフルに突き進む陽子さんと、どっしり構えて支える誠一さん。その二人三脚はこれからも、様々な人たちに吉久の魅力を伝えてくれることでしょう。