「古い家や箪笥(たんす)には“スタイル”を感じるんです。」
そう話すのは家’s(イエス)の代表、伊藤昌徳さん。北海道の帯広育ちで、いっときはプロのスノーボーダーを目指していたことも。家具のアップサイクルと空間プロデュースを生業とする今も、ストリートから受け継いだ感覚が残っていると言います。
「ストリートでは滲み出るその人のカラー、本質みたいなものを指して“スタイル”があるとかないとか言うんですが、古い家ってめちゃくちゃスタイルがあるんです。箪笥にも100年鎮座してきた生き様がある。そのものが醸し出す隠しきれない何かがあって、僕はそこに魅力を感じてしまった。」
伊藤さんは大学卒業後に都内の人材系の会社で働いたあと、「東京は大好きだったけれどなんだか別のことがやりたくなり」地方へ。高岡に来たのはたまたま良い物件との出会いがあったからなのだそう。
「目指して来たわけじゃないけれど、結果的に良かったです。帯広では感じたことのなかった文化と歴史に身近に触れて、ある意味カルチャーショックでした。」
当初は空き家を改装した一棟貸しのゲストハウスを営んでいた伊藤さん。空き家の残置物が9割廃棄されていることを知り、「流通させていく仕組みをつくりたい」とアップサイクルの家具づくりを始めました。
「P/OP」という桐箪笥の一部にアクリルをはめ込んだシリーズは、青山のCIBONEや銀座蔦屋書店のほか、海外でもポップアップストアを展開。ファッションやデザイン、建築関係の人に好評を得ています。
「もともと海外輸出を視野に入れていたのもあって、“日本のモノならではの特徴”を考えた時に、その一つは「軽さ」だと思いました。桐箪笥って良いものになるほど軽い。その軽さを活かしながら形を変えず、壊れた箇所の代替になるものを探して、アクリルを組み合わせることにしました。見た目は重厚な箪笥の裏をアクリルにして光を入れることで、印象がガラリと変わります。店舗などで空間のアクセントに使われることが多いですね。」
関東に販路を広げていきたいと、2024年1月18日には渋谷に店舗を開設。海外にも積極的に進出していきたいそうです。また家具を置くには空間構成も重要だと考え、既存のものを活かしながら空間をアップデートしていくプロデュースの仕事にも邁進。モノをアップサイクルするワークショップの企画なども行なっています。
「古いモノでも視点を変えたり、新しいモノを組み合わせると、本当に新しいモノになる。捨てたり壊したりする前に、違う使い方ができないかって、一度考えてみてほしいです。」
伊藤さんが手掛ける仕事にはアーティストと協働する事例も多く、その理由についてこう語ります。
「アーティストは、ものの見方が柔軟で、僕たちが見慣れて価値を感じなくなっているものにも新しい命を吹き込んでくれます。木彫りの熊のペイントだったり、依頼して返ってきたものには毎回本当に楽しませてもらっているし、空間構成やデザインにも生きる新しい視点をもらえてますね。」
「実は僕は二拠点生活をしていて、関東にも住まいがあります。だからできることでもあるんですが、高岡のこの家はほんとにお金をかけてないんですよ。掃除して、最低限の手を入れただけ。本気で居住するとなったら耐震とか修繕とか諸々必要だけど、新築では再現できない素材の素晴らしい空き家がたくさんあるなかで、もっと軽やかな感覚でつきあう方法もあるんじゃないか。そういうある種の遊び事例も、今後いろいろ提案していきたいと思っています。」