「民謡は風景や名物、物語、仕事の大変さをまぎらわす作業歌だったり、それぞれの土地にある、その土地ならではのものを伝えてきました。すごく貴重なものだから、民謡に携われてきてよかったなと思うんです。」
そう話すのは「民謡・舞踊 華の会」理事長の筏井豊華翔さん。華の会は富山県西部に15もの民謡教室を展開し、約150名の会員に民謡と舞踊を教えています。
「こきりこ」「おわら」「麦屋節」など、富山は今も民謡が盛んで、大伴家持(おおとものやかもち)と万葉集ゆかりの土地でもあります。舞台のプロデューサーでもある筏井さんは、そうした土地にゆかりのものを題材に、とやま舞台芸術祭などでもオリジナルの民謡舞台を披露してきました。
「歌があるところに踊りも残っているんですね。歌には人の想いが込められていて、お祭りの一部であったり、人々の楽しみであったり、意味があってこれまで続いてきている。『こきりこ』は日本で一番古い民謡といわれていますが、そういったものを伝えて守ってきた人たちのことを思うと、この先の子どもたちにも伝えていけたらなと思うんです。」
華の会の発足は1976年。きっかけは筏井さんのお母様、筏井豊華城さんが高岡で開催された日本民謡研究会の教室に行ったこと。はじめは趣味の習い事であったものが、通ううちに指導者となり、教室を主宰、民謡ブームなども背景にどんどんと教室数を増やしていったのだそうです。
「私も母に誘われて踊るようになりましたが、はじめはイヤイヤで(笑)。古臭いイメージがあって、民謡?と思いながらやっていたのが、いつのまにか惹き込まれていました。」
全国の民謡を踊る「華の会」。年によっては「中山道の宿場」、「小京都」など地域で特集を組んだり、青森、秋田、隠岐の島、沖縄などに土地の踊りを習いにいく「研修旅行」なども行ったりしてきました。
「旧国名を知ったり、地名がどんどん出てきたり。北前船のルートに合わせて民謡が伝播して新しいものが生まれていったり。踊りを通じて土地の文化を知る、社会科の勉強になる側面もあるんですよ。」
コロナ禍ではYouTubeでの配信などにも挑戦。
さまざまな制約があるなかで、原初的な踊りの楽しさにも気づいた、と筏井さん。
文化創造都市高岡公式チャンネル
民謡舞踊 華の会 富山県民謡「こきりこ」
「鋳物師(いもじ)のまちに華やぐ伝承の舞(本編)」
「鋳物師(いもじ)のまちに華やぐ伝承の舞(ダイジェスト版)」
「会員たちで『輪踊り大会』をやってみたんです。輪踊りは櫓(やぐら)の周りをぐるぐると輪になって延々踊る、民謡の原点にあるもの。簡単な大会でしたけど、すごく楽しかったんです。」
身体を動かす楽しさを、と近年は踊りを取り入れたストレッチ教室も開催。コロナ禍でなくなってしまった盆踊り大会も、2024年には華の会の主催で高岡の街中に復活させたいと考えているそうです。
「自分の浴衣で参加してもらって、踊りも装いも素敵な方にはベストドレッサー賞を設けたり。きっかけは何でもいいので、若い人や子どもたちに、踊りや民謡に触れる機会を少しでもつくっていきたいと思っています。」
※肩書は取材当時のものです