ものづくり、商売、いろんなチャレンジを試みて

365日の高岡を『市場街』に!

高岡クラフト市場街2023

市内各所のイベント会場を周遊する人々で賑わう街

國本耕太郎さん

畦地拓海さん

久保田光明さん

食べ歩きできる映えフード『味趣の乱』

『高岡で澄む』at 西繊ビル

期間中は15箇所の工場でオープンファクトリーを開催

山町筋の「ものの市」でもさまざまなものづくり体験ができる

西繊ビルでは出展作家の作品等が買える「ニッセンマルシェ」も開催

『ミラレ金屋町2023』『タカマチバル』『御旅屋人マーケット』も同時開催

2023年で12回目を迎える「市場街(いちばまち)」。クラフト、食、アート、デザイン、さまざまな分野を縦横無尽に結びつけながら、高岡の街中へ展開してきました。2022年度には「ふるさとイベント大賞」最高賞の内閣総理大臣賞と「グッドデザイン賞」を受賞。これまでの経緯と2023年の市場街、今後の展望について、実行委員長で漆器くにもと代表の國本耕太郎さん、広報物のデザインから企画にも携わるようになったというデザイナーの久保田光明さん、グループ展『高岡で澄む』を主催する漆芸家の畦地拓海さんの3人にお話をうかがいました。

 

※肩書きやイベント内容は、2023年8月取材当時のものです。

 

 

− 2023年で市場街ももう12年目。ものづくりの場を開くイベントとして、他産地に先駆けて早い時期から開催されてきました。まずは市場街をはじめられたきっかけを教えてください

 

國本:当初は高岡クラフトコンペティションを盛り上げようとしてはじめたイベントでした。コンペの認知度が低くて盛り上がっていなかったのを、当時の富山大学の松原博教授と芸文ギャラリーでキュレーターをしていたデザイナーの羽田純くんが組んで、見せ方から活気あるように変えていきました。はじめは4イベントくらいだったのがどんどん広がって、各々が点でやっている活動を線にして面にしようと膨らませてきたのが今ですね。

「市場街」という名前には、「ものと人が行き交って新しい価値観やつながりが生まれる場にしていきたい」という意味が込められています。

僕は当初は「漆器くにもと」として関連イベントを担当していて、2年目から実行委員に入り、今は委員長として全体をみる立場にいます。実行委員のなかで高岡出身者は実は僕だけなんです。市外や県外出身の人たちが外からの視点を生かして盛り上げてくれているのを感じています。

 

 

− 畦地さんと久保田さんは学生時代から市場街に関わってきたとお聞きしました。これまで、市場街にどのように関わってこられたのでしょうか

 

畦地:学生時代には市場街のスタッフをしていました。卒業後はいったん離れましたが、2019年に『高岡で澄む』のグループ展を発足して、以来さまざまに形を変えながら毎年開催しています。

作家は無意識下であっても、環境から感化されてものをつくります。街を繊細に感じて、受け取っている作家の感覚に触れて、気に留めていなかった風景や日常にある大切なものに気づく、感覚がクリアに澄んでいく、そういう展示になったらいいなと思っています。

 

久保田:僕はちょうど大学入学時が市場街が始まったタイミングでした。当時は産業と観光を結びつけたイベントが珍しくて、すごいことが始まったぞとワクワクして。4年間ずっと関わって、職人さん達との飲み会にも行ってましたね。その後は僕も一度離れてから、市場街の立ち上げに関わった羽田さんのデザイン事務所で働いていたときに広報物をつくるようになって、独立した今もwebサイトなどの制作を担当しています。

広報視点でイベントをみると、去年と一緒だから新しいことがしたいとか、ファミリー向けエリアがあったほうがいいとか、市場街に足りないものが見えるようになってきて。今は実行委員として企画にも携わっています。

 

 

− 2023年の企画の見どころ、これまでとの違いなどは

 

久保田:この12年で「ものづくりの街・高岡」が浸透すると同時に、全国各地でオープンファクトリー系イベントも増えて、イベント自体の新規性はなくなってきました。飽和状態の頃にコロナ禍になってオンライン開催をしたところ、思いのほかyoutubeの視聴者がいなくて、限られた人だけに向いてたんだって気づいたこともあり、それがひとつの転換点になりました。

今年は、あらためて市場街を始める1年目の年だと思っています。ものづくりに興味がなくても楽しめる、ファミリー層が気軽に遊びに来られるイベントにしたい。これまで同様、市内各所でのものづくり体験や山町筋でのマルシェに加えて、山町ヴァレーをイベントの中心地として、わかりやすく整備したり、ものづくりの工房で何がみられるのか期待感が持てる広報をしたり、街中の飲食店に食べ歩きできる「映えメニュー」を提供してもらう「味趣の乱(みしゅのらん)」という新企画を展開したり。

「味趣の乱」は一揆みたいな、エネルギーがわっと放出されるイメージから名付けました。SNSでの発信や、テイクアウトメニューの開発など、各飲食店がコロナ禍で工夫してきたことを活かしながら、抑えてきたものを花開かせて、街の元気につなげたいですね。

 

畦地:僕はコロナ禍で「人類がやっとこっちにきた!」って、ある意味高揚してたんです。誰もがこもらざるをえない状況で、何を見て何を感じるのか、自分の中にある想像力に目を向けるいい機会になった。ここで僕らが動かなかったら嘘やんと、『作家の眼』というアーティストトークのオンライン番組を始めました。対談をキュレーションすることで、作品を見る目が豊かになったり、新しく作家を知れる内容になっていて、毎年好評で続いています。

今年の『高岡で澄む』は、「西繊ビル」と「土蔵造りのまち資料館」、「piilo」の3カ所で開催します。それぞれRC造のビル、市指定文化財の日本建築、長屋商店街の小さな店舗と、空間の質が違うので、環境に意識を置いて展示内容を考えています。インスタグラムのリール動画を作ったり、新しいことに色々と挑戦しているのでぜひチェックしてみてください。

 

國本:市場街はクラフトだけではなく、体験、食、買い物、音楽が有機的に組み合わさって楽しめるイベントです。その時だけのものづくり体験や、飲食店でクラフトの器で食事ができたり、鋳物場でライブを開催したり。今年も街中のあちこちの会場で40以上のイベントが開催されるので、いろんな場を巡りながら、職人や街の人、いろんな人と接して、高岡を体感してもらえたら。

 

 

− これまで市場街に携わってきて、今どのようなことを感じられていますか

 

國本:街のテンションが変わってきましたね。伝統産業の後継で、なんとなく慣習に倣うのはつまらないと思っていた職人たちが、業界外から協力してくれる人やお客さんなど外の視点に触れることで活気を得て、全国と勝負できる夢が見られるようになってきました。

畦地くんの企画などを通じて、職人が作家の作品制作に触れられるのも良い刺激になっています。妥協のない内側から滲み出るものづくりに触れることで、創作意欲が増したり、自分がつくりたいものを考える機会にもなる。一年に一度、職人が自分の作品を作ってみせる展示なんかも考えていきたいですね。

 

久保田:ものづくりの街として職人や技術にフォーカスしてきましたが、高岡は商人の街、古くは日本有数のビジネス街でもあったんです。街に新しい商売を起こしていく力があるし、職人にも商人気質があって、実験的なことへの機動力がある。

だから市場街がビジネスの実験の場として、新しい商品や売り方を開拓していく日になるといいと思っています。そうして『市場街』って名前に込められた意味を体現していけたら。

 

畦地:街の人や大学の先生が、「この場所は展示にいいんじゃないか」って教えてくれたり、『高岡で澄む』を意識してくれるようになってきたことが嬉しいですね。エレベーターのないビルの4階で展示することへのクレームは絶えないんですけど(笑)、「登ってきてくれたら普段は見られない特別な景色をお見せできるので!」と思ってやっています。何かを大きく変えることはできないけど、直接みてもらえたら何か影響して、じわじわと変化していく、それがまた僕らにも還ってくる、創造のサイクルがつながってきているように感じています。

 

 

− 最後に今後の展望について教えてください

 

畦地:他の土地でも『高岡で澄む』を開催していきたいです。僕の出身地である京都や東京など、高岡ってどこよ?って思われているような場所でやることで、おもしろいことができるんじゃないか。それでまた高岡に戻ってきて、ここでやる意味を見直したり。どこの場所でやっても『高岡で澄む』をめがけて来てくれるファンを増やして、高岡に来てくれる人もどんどん増やしていきたいです。

 

久保田:ビジネスのトライアンドエラーができる場にしていきたいですね。その上で、『高岡で澄む』みたいな、求心力のある強みが生まれていってほしい。点から線、線から面ができた現状を第一層として、また突出するものが生まれて、二層三層と積み重なっていくなかで、市場街を飛び出した展開が出てくるのが理想です。

産業観光が普通になった世の中において、わざわざ行きたいと思われる企画を生み出していきたいし、そこでたくさんの人が来れる地盤を整えていくことが自分の役割だと思っています。

 

國本:市場街は「365日を市場街に」というテーマをもってやってきました。イベントの3日間はきっかけづくり、チャレンジをする日で、得たものを日常に落とし込んでいくことが大切で。各々がより自分らしい活動をしていくことで、高岡らしさをもっと表現していきたいですね。

現代は変化の激しい時代ですよね。デジタル領域も取り込んでいかないといけないし、材料費の値上がりなどの逆風もある。一方で、まだ気づいてない良い流れもあるのかもしれない。混沌とした、希望が持ちにくいともいわれる時代に、ものづくりで盛り上がっている産地の存在が一縷(いちる)の希望みたいになれたらいいなと思います。

空き家や担い手不足など地域の課題が、外から見たときに、移住を希望する人などのメリットになることもあると思うので、市場街のなかでも街歩きのイベントなどを通じて積極的な街の紹介もして、課題解決もしていけたらおもしろい。

12年やってきたなかでは、市場街が結婚や移住、大学進学のきっかけになったという人もいます。このイベントをきっかけに街との縁がつながっていく人が1人でも2人でもいたら、実行委員としてはとても嬉しいです。

 

 

 

2023年の市場街は9月16日(土)17日(日)18日(月・祝)の3日間開催します。

市内各所でさまざまなイベントが同時開催されるので、ぜひチェックしてお出掛けください。

https://ichibamachi.jp/

 

※肩書は取材当時のものです

高岡クラフト市場街実行委員会

https://ichibamachi.jp/

 

 

 

高岡クラフト市場街実行委員会

TAKAOKA CRAFT ICHIBAMACHI

【Profile】

「市場街」は高岡市の中心市街地で開催されるクラフトに関する総合イベントで、「工芸都市高岡クラフト展」を中心に、高岡における産学官連携事業として2012年から毎年秋頃に開催。回を重ねるごとに富山県内外から多くの方が来場するようになる。「富山のクラフトやアート」が暮らしのなかで、より身近な存在となるようなイベントを目指している。

実行委員長/漆器くにもと代表

國本耕太郎(くにもと こうたろう)

明治42年創業の漆器問屋「漆器くにもと」の4代目で、職人と他業種をつなぐ伝統工芸産地プロデューサー。伝統工芸とアウトドアを融合したブランド「artisan933」の共同設立者も務める。

 

実行委員/デザイナー

久保田光明(くぼた みつあき)

東京都出身。富山大学芸術文化学部デザイン情報コースを卒業後、高岡市内のデザイン事務所を6年間経験し2022年に独立。デザイン業の他、高岡伝統産業青年会などの団体でも活動する。

 

『高岡で澄む』主催/漆芸家

畦地拓海(あぜち たくみ)

京都府出身。富山大学大学院芸術文化学研究科芸術文化学専攻修了。日本の漆芸技法にタイの技法を取り入れ、独自の造形及び平面作品を展開する漆芸作家。