1865年創業の京田仏壇店。6代目の京田充弘さんは寺院仏閣の修繕における漆塗りや金箔押しを専門にし、曳山などの文化財修理にも携わられています。
「お寺の本堂には大きな祭壇がありますよね。仏壇はあれを小さくして家に持ってきたもの。意味合いは同じものなんですよ」
塗料としてだけではなく、接着剤としての役割も大きい漆。寺社仏閣には目に見えないところにも、多くの漆が使われています。たとえば金箔は漆を接着剤にして貼られるため、きらびやかな金箔の内側には、実は漆の存在があるのです。
「大事なものだから、漆を塗って金箔を貼って、長持ちさせるんだと思います。お寺の壁一面に金箔を貼り続ける仕事をしたこともあります。ずうっと9時間くらい、ぶっつづけで漆を塗って、11cm角の金箔を1,000枚以上貼り続けて。終わった後は数日間体が動かなくなるくらい疲れました」
「お寺の現場で壁や柱を相手にする仕事だから、お椀などの漆器づくりとは漆を使う量も全然違います。とにかく規模が大きい。あと、仏壇塗師の金箔を貼る技術は、漆器の塗師さんの技術とは体系が異なります。それぞれに求められる技があるんです」
曳山などの修理では、何回もの組立てと解体を経て損傷している、山車の一部を成型する技も必要とされるのだそう。
「ものが大きいからこその難しさがあります。漆を端から端まで平均的に伸ばしていく“ヘラつけ”を、手際よくできる職人はなかなかいません」
充弘さんは2022年に国宝に指定された勝興寺の修理にも関わりました。携わったのは高岡の仏壇系の職人チーム。限られた時間のなかで厳しい要件を満たす過酷な現場だったそうです。
一方で、Altena(オルタナ)というブランドでのアクセサリーや什器などの商品開発や、ReKOGEIという先端テクノロジーを使った漆器の造形表現活動など、新しい取り組みにも積極的な充弘さん。金継ぎ教室や、台湾やフランスでの金箔貼り体験など、国内外で漆や金箔に親しむワークショップにも携わってきました。
そこで今後の伝統工芸に懸ける思いについてたずねると、かえってきたのは「まったくないんやちゃね」という職人らしい率直な言葉。
「みんな職人に夢とか理想を期待するけど、商売でやっとること。求められるからやることであって、たとえば仏壇も必要とされなくなったら、つくれなくなるのは当然やと思う。文化財だって、公のため、保存のためって言っても、職人がそれを仕事にできるくらい周りの理解がないと続かない。理想だけではうまくいかないよね」
「でもね。たとえば曳山の山車の修理、仕上がらなかったら祭りに関わる人、楽しみにしてる人、たくさんの人に影響が出る。だからやっぱり、大事な仕事だと思いますよ」