金属の着色技法を用いた鋳金作品を得意とする金工作家、上田剛さん。金属と薬品などとの化学反応によって様々な色合いを表現し、立体的な造形物や抽象画などを創り出しています。高校時代までは野球少年だったという上田さんですが、大学の授業で出会った鋳金、特に着色技法に魅せられ、(有)モメンタムファクトリー・Oriiでインターンとして働いたのが、高岡との最初のご縁でした。
上田さんはその後、大学院進学を経て(有)モメンタムファクトリー・Oriiへ就職を決め、高岡へ移住してきました。現在は職人として働き、仕事の上でも技法上のヒントを得ながら、創作活動との両立を実現させています。主な創作拠点は、自宅や高岡市デザイン・工芸センター。「金工作家が、金属を溶かして型に流し込むという鋳造をしたくても、専用の炉がないとできません。その炉が借りられるのは、今のところ日本中で高岡市デザイン・工芸センターだけなんです。ここが使えるのは、僕にとってとても重要ですね」と、高岡で創作を行うメリットを語ります。
上田さんが鋳金に興味を持ったのは、その製作工程の長さや、1000度以上で溶解させ、型に流し込む鋳込み作業のドラマティックさを含め、素材自体が簡単に扱えないところが魅力と感じたからだといいます。なかでも、着色技法を、そのような扱いづらい素材の美しさを引き出す行為だと感じた上田さんは、それに強く惹かれていきました。
「金属は、無機質な、冷たいイメージが強いですが、熱や薬品などとの反応によっていろんな色を出してくれます。とりわけ銅合金は出る色の幅が広く、繊細な条件の違いで色が変わるので、手に負えない魅力、想像もしないような色が出せたときに、すごく喜びを感じます」。
何かと何かを掛け合わせ、偶然性を大事にしながら形にしていく姿勢は、作品づくりにも表れています。普段のインプットは、歴史の本を読んでみたり、生物学の本を読んでみたりと、浅く広く。そして作品に取り組むときは、最初から何かを明確に意図するのではなく、自分の内側に得たものと、素材と技法とを組み合わせ、創っていく過程で考えていることを、だんだん形にしていくのだといいます。
「美術って、いろんな事柄に対してそれぞれの見え方を示すということなので、それは物語であっても事象であっても、科学的なことであっても同じです。それら様々なものが、自分を通して何になって出てくるか。ミックスジュースのようなものです。自分が何かを見ている限りは、少なからずその影響が作品に出てくるものだと思っています」。
また、高岡の人びととの関わりも、近年変化が生まれてきました。移住してしばらくは、高岡のことを、若者が集えるところが限られていてつまらないと感じていた上田さんですが、“何かと何かを掛け合わせる”という試みをきっかけに高岡を面白いと感じるようになったといいます。それは、2015年秋に行った、フラワーアーティスト、DJ、そして陶芸家である奥さんと連携したインスタレーションでした。
「展示のオファーがあったとき、どうせやるなら違うものを取り入れて新しいことをやりたいと、身近でクリエイティブなことをやっている人に声を掛けました。それまでは、僕と同じように県外から来た美大出身者などのつながりばかりだったのですが、この展示をきっかけに、もともと高岡で育った同世代の人たちと出会い、つながったことによって、地域に愛着が持てるようになりました」。
そうして地域との関わりが変容するなかで、今後は同世代の人や違うジャンルの人たちと、「ものづくり」「伝統産業」にこだわらずに、自分たちが面白いと思うことや、楽しいと思う身近な事柄を増やす活動をしていきたいと上田さんは言います。たとえば、自分が高岡の若者たちとつながる転機となったインスタレーションのように、音楽など、より多くの人が興味を持ってくれるものをうまく組み合わせるようなもの。それは、上田さん自身がいろんなジャンルの本を浅く広く読んで、作品づくりに生かそうとしている姿勢にも重なります。
「クラフトや伝統工芸に興味を持てない人もいる。そういう人に無理に興味を持ってもらおうとするのではなく、ラフな感じで、ものづくりに普段関わっていない人も含めてワイワイやっていたら、集まってくるものもあるのかなと。自分たちがやって楽しいと思うことが、他にも伝わればいいなというところに何かが発生するんじゃないかと思うんです」。
そう語る上田さんに、改めて作品づくりとは何かと尋ねると、「新しい世界を見て、自分の世界を広げるための手段」という答えが返ってきました。ボーダレスに様々なものを吸収し、様々な人とつながっていく過程で生まれるものが、関わり合う人の心を動かし、まちにも彩りを加え、さらに多くの人たちの世界も広げてくれることでしょう。