武蔵川剛嗣さんは国指定の伝統工芸、高岡漆器の「青貝塗」の伝統と技法を受け継ぐ、若き伝統工芸士です。明治43年(1910)創業の有限会社武蔵川工房の四代目として、三代目の父の義則さんらとともに、新たなものづくりに挑んでいます。
「高岡漆器の青貝塗とは、一般的には螺鈿のことで、アワビなどの貝を0.1ミリ程の薄さに削ったものをさまざまな形にカットして漆を塗った面に貼り、模様を表現したものです。漆の黒が薄い貝を通して透けると青く見えることから、高岡では青貝塗りと呼ばれています。高岡の螺鈿は、実は全国の螺鈿の約9割のシェアを占めているんですよ」
武蔵川家で代々受け継いできた華やかな青貝塗の技。祖父の健三さんの代表作は、大正から昭和初期に作られた見事な飾台です。
「唐物と呼ばれる中国風の絵柄で、お茶の世界ではいまも貴重とされています。絢爛豪華な加飾は、当時とても人気があったようです。父が得意とするのは、鮮やかな花鳥の絵柄を表現したもの。そして僕は、古来からの伝統文様を現代風にアレンジしたものですね。螺鈿は歴史がとても古く、例えば江戸時代のいいものを見返すと、いまでもとても新鮮に感じます。花菱紋や七宝など、伝統的な文様を自分なりにアレンジして、現代ならではのデザインに生かしたり。最近では素材も木地だけでなく、ガラスの器や高岡銅器などの金属、石、さらにiPhoneカバーなどにも螺鈿を施したものを商品化しています。日常使いできるカジュアルなプロダクトと螺鈿を組み合わせて、現代の暮らしに合ったものづくりに取り組んでいるんですよ」
異素材やデザイナーとのコラボによって、伝統の技を守りながら、螺鈿の新しい可能性を広げています。また、武蔵川さんは全国的に注目されている高岡伝統産業青年会の一員であり、全国の伝統工芸の職人たちとも積極的に交流を深めています。
「日本各地で、伝統工芸の後継者不足が課題となっています。木地を作る職人さんも減っていますから、今後、各地の産地がもっと協力し合う必要があるかもしれませんね。一方で、高岡には『ものづくり・デザイン科』と言って、小中学校などの子どもたちが銅器と漆器を作る授業があり、これは本当にすばらしい取り組みです。体験を通して、地域の伝統工芸を好きになってもらえるとうれしいですね」
何層にも漆を塗り重ね、薄い塗膜をつくっては磨くことで漆黒となり、螺鈿の奥深い光が生まれると語る武蔵川さん。天然の素材と伝統の技で作られたものは、100年経っても変わらぬ美しさを保てるといいます。「温故知新」を大切に、高岡ならでは次のものづくりへ。新しい挑戦に大きな期待が寄せられています。