高岡の山町筋で天保9年(1838)から続く老舗和菓子店「大野屋」で、新商品の開発に携わる大野悠さん。手がけた「高岡ラムネ」は、いまや県内外で人気商品に。店で保管する落雁の木型から着想を得たお菓子だとか。
「木型は1000種類ほどあり、大胆な図柄が斬新で面白く、精緻な彫りの技には感心します。でも残念ながら、現代では使われる機会が減っていて、和の文化を若い人に伝える何か新しいものが木型でできないか、その思いをいつも友人たちに話していました。すると、金沢美術工芸大学時代の同級生でプランニングディレクターの永田宙郷さんが、『ラムネ』というキーワードを提案してくれたんです」
そして、2012年に誕生したのが、「高岡ラムネ」の宝尽くしと貝尽くし。一つひとつ形が違い、繊細な美と、可愛らしさには見とれてしまうほど。県産コシヒカリの米粉など、上質な素材を選りすぐり、駄菓子のラムネとは異なる上品な味わいも人気の理由です。
「素材や味には妥協せず、口どけのいい、和菓子屋ならではのおいしいものにしようと。日本文化をちりばめた造形や、パッケージデザインの美しさもあって大きな反響がありました」
渋谷ヒカリエなどでも毎年展示販売するほか、花尽くし、御車山のほか、季節ごとのラムネなど、種類は増えて8種類ほどに。経済産業省が優れた地方産品を選定する「The Wonder 500」にも選ばれています。
大野屋さんと言えば、明治の末期頃から作られている「とこなつ」が、お店の看板商品であり、代名詞です。
「先々代が、普通は上生菓子に使う高級な白小豆を使い、日常使いの小さなお菓子にしたのは画期的なことでした。いまでも古さを感じず、真似のできない完成度の高いお菓子です。私たちも負けてはいられませんね」
そんな大野さんも、家業に入る前は金沢美術工芸大学の工芸科で織物を学び、ヨーガンレールで洋服の生地のデザイナーとして活躍。その後は、母校の大学講師をしながら、週末などに家業を手伝っていたのだとか。
「最初は古くから続くものより、新しいものに興味がありました。でも、大学の工芸科で学んだことや、布のデザインの仕事のなかでも、自然の素材、古くから続くもの、丁寧につくられたものの価値に気づいていったんです。
家業についても、この場所で180年近く商いを続けてきたのはすごいこと。長く育まれてきた日本や山町筋の歴史・文化などの背景を大切にしながら、和菓子の文化を時代に合った切り口でつなげていくことが、私の役割ではないかと思っています」
山町筋は、革新的なことに積極的で、ある意味「やんちゃ」な面もあったまちだと語る大野さん。自店や通りに残る和洋折衷のユニークな建築にも垣間みることができるといいます。
「ここからまた、何か新しい魅力をつくっていけたらと思うんです」