“銅器のまち高岡”を象徴する高岡大仏。その優しい眼が見つめる方へゆるやかに下る坂を歩いて行くと、路面電車が走る道と交わります。「Piilo」(ピイロ)は、ここ高岡市坂下町にある小さな商店街サカサカの一角にあるレンタルスペースです。ワークショップや展示などのイベントや、自分で作ったものを販売するチャレンジショップの場として多くの方に親しまれています。
「『誰かのやりたいを小さく形にできる場所』が、ここのコンセプトです。」
Piiloの代表を務める近藤沙紀さんは長野県出身。富山大学芸術文化学部に進学し、デザイン情報コースで主にグラフィック(平面)デザインを学びました。
「当時、他の学生は大学(高岡キャンパス)がある二上町周辺に住むことが多かったんですが、私は高岡駅近辺に住んでいました。毎日まちの中を通りながら大学に通っていたんです。それでまちの人と仲良くなる機会が結構あって、『高岡まちっこプロジェクト』に参加して空き家を活用した蚤の市を企画したりしていました。」
大学では「クリエイ党」というものづくりサークルに所属し、高岡の職人さんとクラフトコンペティションに応募するなど、地域と関わりながら暮らしていた近藤さん。高岡に来たばかりの頃は重い曇り空やシャッターが降りたままの商店街を目にして「グレーな印象を持っていた」そうですが、こうした活動を通じて次第に高岡というまちの魅力に気づいていったと言います。
高岡、そして富山が好きになった近藤さんは、大学卒業後に高岡市内の会社に就職。体調を崩していったん長野に戻りますが、その後富山市内のデザイン会社でプランナーという職に就きます。
「そこではお客さんからの相談に対して『こういうのを作りませんか』と提案したり、社内のデザイナーやエンジニアと一緒にその仕事を納品まで持っていくという仕事をして。その経験が今デザインの仕事をする際に、すごく役立っているなと感じています。」
Piiloをオープンするきっかけとなったのは、高岡まちっこプロジェクトでお世話になっていた方からのお声掛けでした。長い間使われていなかった坂下町の空き家を、複合商業施設にリノベーションする計画があることをそこで知りました。
「大学時代の仲間や同じ思いを持つ友人たちとずっと空き家を使ってワークショップをしたりしていて、その頃ちょうどそういうスペースを探していました。ここなら自分と仲間たちの作業場として使いながらイベント会場としても使えて、誰か、何かをやりたい人にも使ってもらえる空間にできると思ったんです。」
当時所属していたデザイン会社の理解もあり、クラウドファンディングを活用して2022年4月にPiiloをオープン。現在は大学時代に学んでいたグラフィックデザインを本業とし、複数のアルバイトも掛け持ちしながら手伝ってくれるメンバーと一緒にPiiloを運営しています。
「例えば、以前お問い合せがあったのは富山県内のあるお姉さんから。施設に入ったおばあちゃんの洋服がたくさん出てきて、お洒落だったのでどの洋服も可愛くて…捨てずに誰かに使ってもらえると本人も嬉しいかなって、一日だけのイベントをしてみたいとご相談いただいたんです。そうしたら当日は多くの方が来られて、お姉さんにもすごく喜んでいただけました。おばあちゃんが好きだった服をただ捨てるのではなく、誰かがリメイクしたり着てくれたりと、新しい可能性が生まれていくことが嬉しかった、この場所を借りて良かったと。」
「他にも、実店舗を持っていないハンドメイド作家さんが、Piiloをレンタルすることで実際にお客様とお会いできて良かったとか、Piiloを通じて出会った他の作家さんと今後一緒にイベントなどを企画して新しい可能性を探っていきたいと言っていただけたり。この場所を使うことで、そんな化学反応が生まれていることが嬉しいです。」
Piiloはフィンランド語で、隠れ家という意味。「家でもなく、仕事場でもなく、誰かにとってのもう一つの拠点になりますように」という近藤さんの想いが込められています。
「レンタルスペースって言葉は聞いたことはあるけど、実際に使ったことがないからか、よく『どんな使い方ができますか?』と聞かれることが多いんです。その時に何でも自分がちょっとでも思った、その素直な『やりたい』を、この小さな場所だからこそ実現できる何かに使ってほしいなと思います。会議に使う人もいますし、ご近所さんがお菓子を持ち寄ってお茶するときもあります(笑)。本当になんでも良いので、自由に使ってほしいです。」
そして近藤さんは、Piiloが単なるレンタルスペースではなく、「高岡の小さな可能性を形にできるきっかけ」にもなればと考えています。
「ここを借りた方が店舗を持つ時に、チラシや名刺、ロゴデザインも作ってくださいって依頼してくれることもあって。結果的に、自分が一緒にその人のやりたいことを形にするお手伝いができる。そんなことがどんどん増えていったら良いですね。」
「レンタルスペースの利用者は県内の方が多いのですが、最近は県外からお客さんが来てくださることが増えているんです。何か、意図しないふとした出会いがあると言ってファンになってくれたり。このPiiloという場所が、高岡、そして富山が好きになる理由のひとつになれたら良いなという気持ちで活動しています。」